京都大学医学部マイコース・プログラム~アメリカ海外研修体験記~
当会の高木求君(京大医学部医学科4年)が京大マイコースプログラムに参加したレポートを投稿してくれました。
京大医学部に関心のある方は是非ご一読ください。
アメリカ海外研修体験記
高木 求 京都大学医学部医学科4回生
このたび私(高木)は4回生のマイコース•プログラム活動の期間を利用して、アメリカ国立衛生研究所(NIH)に留学させていただきました。留学前の準備や現地での生活の様子について、困ったことやアドバイスも交えながら記したいと思います。
1.マイコースシステムの概略、海外研修のきっかけ
京都大学医学部では、4回生の7月中旬〜10月中旬にかけて「マイコース期間」というものがあります。これは4回生の夏休みの期間を利用し、自分の希望する分野の研究室や海外の施設で研修を受けるというものです。海外には例年40人ほど渡航し、行き先もアメリカ、ドイツ、オランダ、インドと様々です。また交渉によっては他大学の研究室や政府の機関(厚生省など)で研修を受けることも可能です。
僕は1回生の夏〜2回生の中頃までラボローテーション(後述)で放射線遺伝学教室(武田俊一先生)に通っていたことがあり、そこではPCRやSouthern Blottingなどの基本的実験手法を教わっていました。また3回生の秋ぐらいから渡航前までは、Medical ESSのBMC(基礎医学の研究分野を30分の英語スライドで紹介する競技)の夏の大会への準備を行っていたのですが、そこでは腫瘍学に関するテーマについて勉強していました。これらの背景知識や自分の英語に関する経験経験を活かしたく、武田俊一先生等と相談した結果、アメリカNIHのYves Pommier先生の研究室へ留学させて頂くことになりました。
2.1日の大体のスケジュール、NIHの様子
(1) NIHでの生活(平日)
NIHは首都Washington D.C.の中心部から、地下鉄で20分くらいの所に位置します。辺りが住宅に囲まれた閑静な場所で、イメージ的には日本でいう「つくば市」が近いかもしれません。ただ近くのコンビニやスーパーマーケットまでは自転車を使っても片道20分かかり、アメリカは車がないと生きていけないように感じました…。
1日のスケジュールとしては、朝の9〜10時にラボに到着し実験、正午〜昼の1時くらいに昼食をとってからまた実験を再開し、夜の7時くらいに帰宅というのが基本サイクルでした。また毎週火曜日の朝10時からLabミーティングがあったため、原則出席していました。PCRや免疫染色では待ち時間も生じることもあるため、空いた時間は論文抄読、読書、英語の勉強などに費やしていました。
私の通っていた研究室は、Yves Pommier先生というフランス人のボスだったため、メンバーはフランス人が一番多かったです。しかしそれ以外にも(多い順に)日本人、ドイツ人、アメリカ人、中国人、台湾人、カナダ人、シリア人(Muthana先生)など、メンバーの国籍は多岐にわたりました。現地のラボで一番驚いたことは、同じ国出身の人同士では、ラボ内であっても母国語でコミュニケーションすることがしばしばあったことでした。海外のラボといえば、皆ほぼいつも英語で意思疎通しているイメージがあるかもしれませんが、特に現地に来たばかりの頃に、アメリカ独特の研究環境や生活の仕方について母国語で教えてもらえることは、意外と大きな支えになりました。
(2) 休日の過ごし方
休日は原則的に大学での実験がないため、様々な場所に出かけました。アメリカには東海岸だけでも廻り切れないほどの名所がありますが、ここでは代表的なもののみ挙げます。
<ワシントンD.C.中心部>
国立航空宇宙博物館や国立自然史博物館に代表されるスミソニアン美術館が有名で、ほとんどの施設が入場料無料なのでお得です。また映画「Forrest Gump」の舞台にもなったReflecting Pool(リンカーン記念館前)にも行きました。
<ニューヨーク>
ワシントンD.C.からバスで4時間ほどで着きます。ニューヨークは見所が多い街で、おそらく1週間あっても全て回ることは難しいと思います。なので昼はセントラル・パーク散策やメトロポリタン美術館巡り、夜はBroadwayでミュージカル鑑賞という風に時間を有効に使っていました。
<ボストン>
Harvard Medical schoolでマイコース研修していた同級生が3人いたので、行きはAmtrakの夜行列車に乗って会いに生きました。市内は地下鉄がよく整備されており、MITやボストン美術館など大半の観光地は地下鉄のみで行けます。
<ナイアガラの滝>
その名を知らない人はいないほど有名な観光スポット。アメリカ側のバッファロー・ナイアガラ国際空港から北西40kmのところに位置します。D.C.の空港からも1時間ほどで着きますが、途中の乗継はやや不便で、家を出たのが朝の6時、現地に到着したのが12時半でした…。ただ辺り一面の水しぶきなど、行った人にしか味わえない神秘的世界には、往路の疲れが全て吹き飛ぶほど圧倒されました。
(3) 現地でやった実験内容
主にTDP1をtargetとした、様々な抗癌剤作用機序の解明を行っていました。TDP1は酵母から発見された酵素で、酸化、抗癌剤治療、電離放射線によって生じる様々なDNA末端損傷の修復に関わっていると言われています。今回は、Wild-Type、Mutant A(HR pathway)、Mutant B (NHEJ pathway)というふうに異なるDNA修復機構を障害した細胞を作成し、その各々に対して薬物濃度と薬効の相関関係を調べるという実験に主に関わらせていただきました。
それ以外にもConfocal microscopy(共焦点レーザー顕微鏡)や、96穴プレートに入れた細胞の生存率を全て自動で測定する機械なども扱いました。短い研修期間ではあったものの、様々な実験や最新の実験装置に触れることが出来たのは、政府直轄で研究資金が豊富なNIHならでは貴重な体験だったと思います。
3.NIHで研修するメリット
月一のペースで日本人向けセミナー(NIH金曜会)が開催されていました。これはNIHで研究活動を行っている日本人研究者を1人お招きし、研究内容やNIHで研究するに至った経歴等について約1時間くらいお話していただくものでした。毎回30人前後の日本人が集まり、講演会の後にはセミナー参加者同士での交流会もありました。中には私と同じように大学からNIHへ派遣されてきた学生もおり、最新の研究知見に触れられるだけでなく、将来アメリカの研究室でキャリアを積む上で何が必要か考えるのに非常に役に立ったと思います。過去にどのようなテーマの講演が行われたかはNIH金曜会のFacebookページにも掲載されているので、一度参照してもらえるといいかもしれません。(https://www.facebook.com/NIH.kinyokai?fref=ts)
またNIHで研究している日本人は、何とMain Campusだけでも500人ほどいると言われており、NIHで研究する最も大きなメリットは、日本人にとって研究しやすい環境が整っていることだと思いました。
4.今回の海外研修で学んだこと、後輩へのアドバイス
今回のマイコースでは実験スキルの不足やアメリカ独特のラフな雰囲気もあり、困ったこともいくつかありました。しかし日本を2ヶ月離れて生活することで、日本で身につけておくべきだったこと(そしてこれからも身につけるべきこと)が明確に見えて来たような気もします。
私は1回生の頃からMESSの活動等を通じて英語のスピーキングの能力の向上に努めてつもりでしたが、いざアメリカで研修をしてみるとネイティブスピーカーのやりとりの速さについていけない等、日本と同じレベルで生活していくにはまだまだ英語力が足りないと実感する部分もありました。ただ、コミュニケーション力を中心とした英語力を身につける際も、やはり受験英語は役に立つように感じました。会話という自ら文を組み立てる作業をする上で構文の知識を瞬時に引き出せるようにすることは重要ですし、どれほど英語が得意な人でも、自分の言いたいことを日本語で考えてから初めて発話を行っているからです。「英語の構文150」(美誠社)という本を使って勉強している人も多いと思いますが、大学に入ってからも生涯使える参考書として、中高のうちから文法の知識の整理をしておくことをお勧めします。
また最初のセクションでも少し触れましたが、1回生から放課後を使って研究室に出入りできる「ラボ・ローテーション」というシステムがあります。特に1・2回生の間は教養科目が中心、専門科目も解剖や組織学などがポツポツあるのみなので、空き時間を利用して研究室に通っている人も多くいます。中には学会で発表させて頂いたり、論文に名前を載せて頂いた人もいるようです。
また今年の11月上旬にはマイコース発表会の運営に関わり、有志のメンバーが各々のマイコース活動について発表したり、何人かの先生方とも研究内容に関する質疑応答などを行いました。(当日の様子は以下のサイトにも掲載されています ⇒ https://sites.google.com/site/kscomofficial/2014mycurse) やはり京都大学は、基礎研究や海外研修に対する敷居が比較的低いように感じます。受験生のみなさんも、充実した大学生活を目指してぜひ頑張って下さい。