プログレス会NEWS

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Oxford大学John Radcliffe Hospital Acute General Medicine 実習生に選出

Oxford 大学John Radcliffe Hospital Acute General Medicine での実習

大阪大学医学部医学科

1.きっかけ

在学中さまざまな場面で「海外の医学生はもっと臨床ができるし、優秀だ」と先生に言われ、疑問に思った。したがって実際にレベルの高い英語圏の医学部で実習を行い、確かめるとともに、Oxfordの学生と比較し日本の臨床実習で自らに足りていない点を見つけようと決めた。

2.目的

①積極的に診療チームに参加し、将来のキャリアの指針になるような医師像を明確にすること
②Oxfordの学生と同等のレベルで実習をして、日本の医学教育で自らに足りない点を自覚すること
③イギリスと日本の医療、とくに急性期医療の違いを発見し、互いの良い点、改善が必要な点を考察すること

3.実習

a) Acute General Medicine ~日々の病棟実習~

Oxford University Hospitals (OUH)には3つの病院があり、そのうちの一つで最大の教育病院であるJohn Radcliffe Hospiral (JRH)内の、Acute General Medicine (AGM)という科で一カ月実習をしました。AGMは直訳すると「急性期総合内科」ですが、主に救急外来やかかりつけ医の紹介を経て入院し、1週間ほどのAGM病棟での入院加療を経て、退院や地域の慢性期病院へ転院、あるいは他の科への転科をする患者を診療する科でした。AGMはチーム制で病棟を分けて管理しており、多いときには20人ほどの患者さんをチームで診ていました。

毎日のスケジュールは午前中にチームで回診をしながら治療指針を決定していくというもので、学生は回診中に身体所見をとったり、検査結果を解析したり、指導医に方針をプレゼントして評価をもらうことができました。午後には医師たちは文書作成などの業務をしていたので、講義が無い日にはチームの他の学生と一緒に、患者さんの医療面接をしに行ったり、身体所見をとりに行ったりしました。

b) Acute General Medicine ~救急外来の当番日~

Accident and Emergency (A&E)というイギリスの救急外来では、救急医がすべての搬送あるいはウォークイン患者をファーストタッチで診たあとに、必要に応じて蘇生を行い、そして内科疾患はMedical Assessment Unit (MAU)、外科疾患はSurgical Assessment Unit (SAU)に振り分けます。AGMの診療チームは3日に1回ほどの頻度でMAUの当番をすることになっており、救急外来に来た内科疾患と、加えてGeneral Practitioner(GP)かかりつけ医からの紹介例を救急外来に行って診療していました。これらのTakeと呼ばれる当番日は、具体的にはDay Take(日中9時~16時)、Evening Take(夕方16時~21時)、Night Take(21時~翌朝9時)に分かれており、学生はこのうちDay TakeとEvening Takeの間救急外来で実習できました。実際には患者さんの承諾を得た後に、医療面接・身体所見をとり、所見を踏まえて鑑別診断と治療方針を医師にまとめて報告し、そのあと指導医とともに患者さんの診察に行って、フィードバックをもらうというものでした。様々な疾患がMAUで診られることに加え、自分の力で考えること、そしてこの考えについて評価を上級の医師からきちんともらえるというのはとても勉強になりました。

c)Acute General Medicine ~学習面~

AGMの学生に対して少人数のセミナーや実践的な薬理学の授業が提供されており、これらはどれもインタラクティブに行われるので、勉強になりました。また学生の症例発表の機会が毎週あり、私も最終週に「2週間の頭痛とXII脳神経麻痺を呈した内頸動脈解離の症例」というタイトルで、AGMで診察し、その後入院管理を行った症例の発表をしました。
Oxfordの実習生に対して提供されている講義やミニテストなどはすべて受ける機会が与えられましたし、医師も加えたMedical Ground Roundも聞くことができました。

英語に関しては、1週間目はイギリスのアクセントと略語に苦労しましたが、2週目からは十分に実習できました。医学英語は多く知っているほど診療チームに参加できるしハイレベルな実習ができると感じたので、英語学習では比較的速い会話についていける+医療面接ができる+医学英語に触れる というところがポイントになるのではないでしょうか。

d) Oxford大学 医学部

Oxfordの医学部では1,2年に医学の講義を受け、3年次に基礎研究室で一年間研究し、4,5,6年で病院実習をするようでした。6年次の大半は卒業試験への勉強と選択実習らしく、また4年次には基本となる総合内科と外科のローテーションを行うということでした。

私は主に4年生と同時に実習をしたので、講義やセミナーの情報を得たり、一緒に身体所見の取り方を練習したり、検査結果や治療についてディスカッションしたりと、とてもよい機会を得たと感じました。Oxfordの学生は病院での学生生活だけでなく、その他の生活面や学生のイベントも教えてくれるので、Oxfordの学生がいる科で実習してよかったと思います。

実習全体については、Elective CoordinatorのMs Carolyn Cookが対応してくれます。最後に指導医からのFeedback Formと、実習の証明書をもらえました。

4.振り返り

積極的に診療チームに参加し、将来のキャリアの指針になるような医師像を明確にすること

  • 診療チームで情報共有しプランを立てること、さらには医師だけでなく看護師や理学・作業療法士、ソーシャルワーカー、薬剤師と一人一人の患者さんについて情報を共有し、医学的な問題の解決のみならず社会心理学的な問題の解決や改善をはかること
  • 経験と知識のみに頼らず、絶えず最新のガイドラインや論文を参照し、エビデンスに基づいた医療を提供すること、また自らの学術的な関心分野を常に持ち続けること

Oxfordの学生と同等のレベルで実習をして、日本の医学教育で足りない点を自覚すること

  • 診察手技、とくに身体所見の取り方についてまだ至らない点が多くあること
  • 学生同士で日々の診察や病態について実習中にディスカッスし疑問を解決すること
  • 鑑別や治療方針、さらには退院までのステップに関して、理解するだけでなく自分でプランを考え指導医の評価をもらうこと

イギリスと日本の医療、とくに急性期医療の違いを発見し、互いの良い点、改善が必要な点を考察すること

イギリスと日本には、共に高齢化社会であり、高齢者医療には慢性の、しかも複数の疾患を抱えている場合が多いこと、一度入院すると入院期間が長くなることや、自宅に退院できずにケアを必要とすることなどの特徴が上げられます。イギリスの医療はNational Health Service(NHS)という無料で医療が受けられる政府のサービスにより提供されており、一方日本の医療は医療保険に基づいているという大きな違いがありますが、共に高齢化が進展するにつれて医療費が国家財政を圧迫しているという状況は同様です。

両国家ともに、高齢者の特性に合わせた方針として、医療費の予算配分を大きくすることはもちろんですが、同時に支出の抑制をはかるために①従来の病院での入院加療からコミュニティでの予防やリハビリ、介護施設に重点をシフトさせて入院期間を短くすること、そして②普段の慢性疾患はGPかかりつけ医で診療し、急性期にのみ大規模な病院の管理をするという医療の役割分担をはかること、が解決策として上げられています。

①のコミュニティに関しては、イギリスでも日本と同じように慢性期病院やケアホームの不足から、急性期病院から転院したくてもできないという状況がありました。しかしイギリスの院内でのソーシャルワーカーや療法士、看護師を含めての情報共有はとても強固であり、医師以外が同等に発言をし、社会的な問題についてプランを練って、退院への道筋をつけられているように感じられました。入院した瞬間からリハビリを始める、というように、医学的な問題以外にも最初から医師が認識する必要性を感じました。また、緊急性のない検査は退院してから外来受診してもらう、というように、入院期間を必要以上に伸ばしすぎないようにとの指針は院内で徹底されていました。②のかかりつけ医制度に関しては、イギリスは徹底されており、救急以外では、日本のように直接市中の病院を最初から受診することはできないようになっていました。しかしGPからの紹介で大病院を受診できるまでに、特に救急性のない疾患では数カ月かかることもあり、医療資源の不足は問題となっているようでした。JRHは地域の中核病院ですので基本的に救急車を断ることはありませんでしたが、病棟のベッドが満床の期間があり、その間救急外来の廊下にベッドを並べていました。日本と同様に救急の搬送件数は増大しており、電話で救急外来を受診した方が良いか相談できる制度がありました。

①②をまとめると、AGMというのは内科の、複数の慢性疾患を抱える患者が増える高齢化社会において、とても合理的な科であると考えられます。イギリスと日本という異なる医療制度を持った社会においても共通する問題が見られたことから、他国の実例を検討し参考することは、日本の医療制度の改善にもつながるのではないかと考えられました。

5.おわりに

最後に、今回のOxfordのJohn Radcliffe Hospitalでの選択実習では、充実した実習を行い臨床的思考能力を訓練するとともに、Oxford全体で世界最高峰のアカデミズムに触れ、そこで活躍する医師や、熱心に学ぶ学生に出会うことができ、たいへん貴重な経験になりました。これからの6年次の実習にこの経験を生かし積極的に学ぶとともに、研修医になっても物事に挑戦する姿勢、批判的な視点をもって大きく日本の医療を眺める視点を忘れずに励みたいと思います。また将来の専門科でトレーニングを積む過程で海外で経験を積むことを大きな選択肢と考えたいと思います。

実習の実現、実際の準備、渡航中の報告などにあたりまして、医学教育振興財団の皆さまにはたいへんお世話になりました。ありがとうございました。